長月の十七日に

紅葉君、誕生日おめでとう！
という訳でネタです。

満月殿にお伺いを立てたので、開き直ってみます（笑）
やたら長くなりました。
なので流し読みが良いかと（え


日記は後程。
それでは参ります。
お目汚し申し訳ないっ…！

「雪消、そろそろ迎えに行ってもいい頃じゃないか？」
掛けられた声に、春之丞は読みかけの文庫を閉じて時計を見上げた。
確かに丁度良い時間だろう、とひとつ頷いて立ち上がる。
「…ああ、行ってくる。」
「はい、行ってらっしゃい。」
車の鍵をスラックスのポケットから取り出し、飛鳥の見慣れた笑顔を視界の端に入れる。

お互いに慣れたもので、一方的に頼みごとをしたり聞いているのかそうでないのか返事もしなかったり。
まあそんなことはどうでもいい。
今回は春之丞と飛鳥、互いに目的が同じなので協力的だったりする。

そんなこんなで春之丞が向かったのは、とある大学。
飛鳥から連絡がいっている筈なので門の側に車をとめ、窓を開けたままぼんやりと待つ。

講義の切れ間なのか、門から生徒らしき人が出てくる。
待ち人は見当たらないがどうもその生徒達が此方を見てくる、一体なんだというのか。

そんなことを考えていると、元気な声が春之丞を呼んだ。
「春之丞さん！」
窓の外を見れば、眩しいフレアレッド。勿論待ち人の紅葉で。
「目立ち過ぎだって、春之丞さんっ。」
視線で促されるままに助手席に乗り込みながら、紅葉は笑う。楽しそうだ。
その意味が解らずにいると、だって、と耐られないというように噴出す。
「そ、の格好でそのサングラスは駄目だよ！色んな意味で、反則っ！」
言われ、己が今ダークスーツに運転に迷惑だからとサングラスを掛けていたことを思い出す。
そんなに怪しい、若しくは恐ろしい生き物に見えるだろうか。
昔からの慣れと、知り合い達の何ともなさそうな反応で、いまいち感覚が麻痺しているらしい。
「ああ、悪い。」
それではこんな風に待たれては迷惑だったろう、という意味で謝罪する。
あまり謝っているようには聞えないが。
けれど紅葉もそんな反応になれてしまっているのか、内容は理解されたようで、そんなことないですよ、優しく笑う。
こういう優しさは、本当に彼の長所で愛される部分なのだろう。
春之丞や飛鳥が年上だからか丁寧語と、彼自身の普段の口調が混じったそれは、紅葉のそんな部分を際立たせていた。
不愉快になるどころか寧ろ信頼を寄せてもらっているのかも知れないと、そう思わせる。


「あ、えと。今日はどうしたんですか、飛鳥さんから時間が欲しいとか、春之丞さんにも迎えに来てもらっちゃって。」
余計なことを考えながら、けれどきちんと紅葉がシートベルトをしたのを確認して春之丞は車を発進させた。
アクセルを踏みつつ、紅葉の質問を噛み砕く。
「…、お前に用事があった、迎えは申し出た。それだけだ。」
説明するのは面倒なのか、紅葉が求めているのはそんな答えではないと解っているのに春之丞は短く答える。
つまりは着けば解る、と春之丞は一番理解し辛い言い方で紅葉に伝えた。
紅葉の不思議そうな表情を、春之丞はサングラスとミラー越しに見逃さない。


行きよりは少し時間をかけて、一応運転が慎重になるから、店へと着く。
春之丞は紅葉に車を置いてくるから先に入っていろと囁いた。

からん、とドアベルを鳴らして、店へと入る。
「お帰り、紅葉君。そして、誕生日おめでとう。」
「飛鳥さん、」
驚いたように、紅葉の眼が見開かれた。
自分の誕生日を忘れていた訳ではないが、まさかこう祝われるとは。
「突っ立っているな。…おめでとう。」
幾分柔らかな音の祝福と、フレアレッドを掻き混ぜる手が後ろから降ってきた。